春の日

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 先輩は喋りながら、ぽろぽろと涙を零す。幽霊となって現れた俺を見ても、ほとんど動揺を見せなかった彼女が、初めて、俺の前で涙を見せていた。  泣かせるつもりなんて、なかった。  だが。それでも俺は、嬉しかった。  俺は、先輩が好きだった。  そして、あのころの先輩も、俺が好きだった。  これ以上、何が必要か。  もう、十分だ。十分すぎるものを、俺は彼女から、貰った。 「ありがとう、ございます。先輩」  止めどなく溢れてくる涙を拭いもせず、俺は、そう言った。 「一方的だったけど、先輩を好きになって、本当に、良かった」  
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