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でもそのうち一つの組織が不良品だとしたら、与えられた役割を果たせないままに、不良としてそれは体である躯体全体にも影響を及ぼす。そのまま何も手当をしなければ、予定していた寿命を迎えることはなく、いろんな部分に想定外の負荷をかけて、歪みやひずみをもたらしてしまう。だから人はその建造物をすぐに建て替えるか、その部分を交換するかして、半恒久的に利用し続けようとする。
でもそれは、とても幸いなことだ。
取り替えが効くというのは、人の体の場合、そう簡単にはいかないからだ。
体に巣食ったたった一つの不良品が、自分の行動をすべて決定づけて、しかもそれはいつ暴発するか分からない危険を孕んでしまう。
もちろん替えが効く場合も多くなってきたけれど、瑞透の場合は、それに当てはまらない。
交差点に差し掛かった瑞透は眉をひそめるようにして立ち止まり、自分の体内のコアを探るように意識しながら、深く息を吸いこんで吐き出した。
胸の奥で微妙に変則的な動きをした部品とは、もう十六年ものつきあいだ。
襟を緩めて楽な姿勢をとろうとした時、瑞透は、「あ」と視線を前方に落とした。
その先には、立体交差点を過ぎゆく無数の足の間で、輪郭の曖昧な黒く凝った塊があった。
大きさは三十センチばかり、わずかに地面から浮いて、縮んだり膨らんだり、真円になったり楕円になったりを繰り返している。時々どろりと黒い液体のような粘質質のものが滴り落ちては、地面に着くか着かないかのうちに煙のように消えた。
しばらくソレに集中して見つめていると、胸の奥深くの小さな異変は静かに収まった。
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