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でも瑞透にじっと見つめられていたソレは、視線を感じたようにかすかに震えて、その動きをとめた。
「瑞透、どーしたー?」
ダークグレーを基調としたチェックのズボンにグレーのベストを着た友人の一人が四、五メートル先で振り返った。
「あー、ううん、なんでもないよ」
瑞透は何事もなかったかのようにふっと笑みを浮かべると、ソレから視線をそらして先で待つ友人たちの元へ早足で歩み寄った。
「なんだよ、カワイイ子でもいた?」
唇の端に浮かんだ笑みに何を思ったか、カッターシャツもネクタイもだらしなく着崩した友人の武士(たけし)が瑞透の首に陽に焼けた腕をまわした。
「……いや?」
「瑞透、ナンパならオレが伝授してやっから、気になる子いたら言えよ?」
「武士、一回も成功したことないじゃん」
友人たちの間で軽い笑いが起きて、瑞透も一緒に笑った。
その時、ふと右の足首にひんやりした空気を感じて、瑞透は視線を自分の足元に落とした。
そこに先ほど見ていたソレが、やわやわとまとわりついている。瑞透はかすかにため息をついて呟いた。
「……僕には何もできないよ」
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