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そして軽く右足をあげて、小石でも見つけたように宙に蹴った。それは蹴られた弾みで、見た目に反した軽やかさで宙を飛んで瑞透の足から離れると、そのままどろりとした尾を引くように弧を描き、雑踏の中に吸い込まれていった。
およそ渋谷の喧騒には似合わない奇怪なものを、瑞透はいろんなところで見てきた。
田んぼのあぜ道に、山林の木々の根元に、この日のように都心の交差点に、外灯が照らす住宅街の庭先に、学校の準備室のカーテンに、走る電車の窓の外に。
例をあげればキリがない。
ソレを意識するようになったのは、北関東の山間にある祖母の兄にあたる大伯父の屋敷に行った幼い頃だ。その時からもう十年近く経つ。
「明後日で学校終わり! 夏休みどうすっかなー」
「瑞透、夏休み、実家帰んの?」
「うん、そのつもり」
ファーストフード店で大盛りポテトとハンバーガーを前に、瑞透はスマホをいじりながら頷いた。他の友人たちも一個や二個ではないハンバーガーを片手に、だいたいはスマホでおのおの好きなことをしている。
「いつから?」
「んー……初日から」
「瑞透って家どこ?」
「あ、武士、瑞透ん家知らないんだっけ?」
「オレ高校からの編入組だもん」
「G県。たぶん来たら山ん中すぎてひく。イノシシもシカもキツネも普通にいるから」
「え、マジ? そんな? 行ってみてえ!」
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