シグナル

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シグナル

世界は優しくない、と思う。 仮に、目の前に、お金が必要だけれど、稼ぐ術もなければアテもないという人が転がっていたとしても、多くの人は手を差し伸べるのではなく、ちらりと一瞥して通り過ぎるだけだろう。かわいそうだ、という憐れみがあったとしても、実際に助けようとする人間はまれなはずである。どれだけ「恵まれない子供に愛の手を」とか「募金で障がいを持った人たちを救おう」なんて綺麗事を(うそぶ)いても、実際にそのために何かをしている人間が、どれだけこの世界にいるのだろうか。地球環境を守ろうと声高に叫ぶのは簡単だが、実際に、日常生活の中で、地球のために自分の時間とエネルギーを使って何か行動をしている人が、どれだけいるだろう。人間はどのみち、生きているだけで地球にとっては有害な存在でしかないはずなのだ。本当に地球のために何かをしたいなら、自ら断崖絶壁の上から飛び降りるくらいの気持ちがなければいけないのではないか―。 「柊、どうした」 講義室の片隅で、ぼんやりと窓の外を眺めていたら、同級生の秋元孝明(あきもとたかあき)に声をかけられた。こいつとは、入学時のオリエンテーションからの腐れ縁だ。あれこれ言葉を交わしていたら、知らず知らずのうちに仲良くなっていた…という関係性は往々にしてあるものだが、こいつはその典型であると言ってもいい。 「どうしたって、何が」 「相変わらずつまんなそうな顔してるからさ」 こうやって、ずけずけとモノを言うあたりも、いかにも僕みたいなひねくれ者と仲良くなりそうな人間性だと思う。 「今日も世界は平和だと思って」 「嘘つけ。どうせまた、地球なんか爆発しろとか思ってたんだろ」 当たらずとも遠からずだ。
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