シグナル

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今日の講義も退屈だ。しかし、出席を取られるだけでなく、講義中の感想を出席表に記入して提出しなければならないため、中座するわけにもいかない。パワーポイントを得意げに操作する教授の姿を見ながら、僕は溜息をついた。 この大学に通い始め、もう一年が経ったけれど、大学生活とは結局、こんなものだろうか。確かに、入学したての頃は専門的な学問には触れられないまま終わったが、二年生になっても相変わらず一般教養の単位を取るのにここまで苦労させられるとは思っていなかった。個人的には、早く専門的な勉強をしたいと思っているのだけれど、シラバスによれば、これも立派な社会人を育成するために必要な幅広い知識を涵養(かんよう)するための必要なステップなのだそうだ。果たして本当にそうなのか、と懐疑的になってしまうのは、きっと僕一人だけではないはずだ。 ふと、さっき孝明が指差してみせた女の子の方をちらりと見やる。僕とは違い、真剣なまなざしで、机の上のノートにペンを走らせていた。一瞬、黒板の前で話す教授の方に視線を移し、再びノートに目を落とす…という繰り返し。たったそれだけの動作なのに、なぜか僕は彼女に視線を奪われた。 僕はきっと、この時に既に何かを感じ取っていたのだと思う。 他の誰かではなく「この人」なのだと。
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