キャリー

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キャリー

 春のうららかな日差しが、アスファルトに踊っている。道路の両側には草むらがしげり、そこからにょっこりと一匹のヒキガエルが顔をのぞかせた。  ヒキガエルはアスファルトの路面に鼻先をつきだし、しばらく立ち止まっていた。路面の向こうにはきらきらと輝く水面が見えている。  どうしようか、道路を突っ切り反対側に見える水面を目指すか、それともこのままでいようか、ヒキガエルは迷っているようだった。  しかし日差しはこれから強くなり、ヒキガエルの肌はどんどん乾燥していく。かれは水を欲していた。  のたり、ヒキガエルは一歩を踏み出した。アスファルトの温度はまだそれほど上がってはいない。充分、水面まで耐えられる。  のたり、のたりとヒキガエルは二車線の道路を横断するという旅に出た。  ほぼ半分まで旅したとき、はるかな地平線の向こうから一台のスポーツカーが猛然と接近してきた。真っ赤な塗装の、最新型である。    ぶあんっ!    スポーツカーのタイヤは一瞬にしてヒキガエルを踏み潰していた。あわれヒキガエルは冬眠からさめた最初の朝にひき殺されていたのである。
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