キャリー

2/11
前へ
/96ページ
次へ
 スポーツカーには三人の男女が乗り込んでいる。女ひとりに、男がふたりである。  男ふたりは黒いスーツの上下に、黒い中折れ帽、白いシャツに細身の黒いネクタイ。足もとは黒のエナメル靴に顔には真っ黒なサングラスといういでたち。服装はおなじだが、体型は正反対だ。  背が低く、むっちりと太ったほうは助手席にすわり、ひっきりなしにタバコをふかしている。  ハンドルを握るのは対照的に痩せているほうだ。長い手足を窮屈そうにおりまげ、運転席に座っている。  後部座席にすわる女は年のころ二十代後半か、三十代はじめころか。年令を推測するのが難しい美貌の持ち主である。ほっそりとした身体にぬけるような白い肌をしている。髪の毛はいわゆるプラチナ・ブロンドというやつで、それをアップにして後頭部でまとめている。  三人は哄笑していた。  いや、正確にはふたりである。  太った男と女は口を開け、高笑いをしていたが、痩せた男はむっつりと押し黙り、ハンドルを生真面目に握ったままだ。しかし機嫌が悪いわけではなさそうで、つまり極端に無口なだけだろう。 「姐御! まったくうまくいきましたね。こんな稼ぎは何年ぶりだろう」     
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加