第一章 夜の始まりへ

2/42
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/251ページ
1.1  暗闇はひどく人を不安にさせる。 未だかつてない、これほどまでに明るい夜を手に入れた私達でも、その恐怖は変わらない。 この世界から、浮き上がってしまっているような居場所のなさ。 そんな夜に、しっとりと落ちてくる雪は、これが夢の続きであるような錯覚を与えてくれる。  でもこれは現実だ。 絶対的な証拠はどこにもないが、この肌を刺す風が、 口から吐き出る白い息が、確信させてくれる。  たった数メートル地面から離れただけで、 駅の連絡橋の上は凍え死んでしまいそうなくらい寒いし、心細い。 うつ伏せになって、もう一時間ほどは経っている。 待ち続けるだけというのは、かえって神経をすり減らしていくのだ。  傍らに横たわる、黒く重たい塊。 やけに長い。 狙撃銃というものか。 あまり詳しくないからよくわからないけれど、信用できる強さを感じる。 私はこれで、いずれやってくるであろう獲物を、仕留めなくてはならないのだ。 もちろん、銃を撃ったことも、握ったことも、 そもそも今まで本物を見たことすらなかった。 それでもやらなければならないという緊張は、凄まじかった。
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!