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背中まで伸びた艶やかな茶髪を揺らしながら空席へと向かう彼女の姿はどこか大人びていて、その声の透明感も相まって落ち着いた印象を受ける。…勿論、彼女が向かっているのはこの教室唯一の空席である僕の前の席ということで……
「――久しぶり、だね。フクちゃん」
席につくなり、昔と同じように僕こと八古森福太の名を小さな声で呼ぶ彼女のせいで、僕は目が離せなくなってしまうのだった。
◇
「本当に、久しぶりだね…フクちゃん」
「あぁ、うん……」
放課後。…まぁとはいっても始業式当日なのでまだ昼前。僕と彼女……満帆臣愛莉華の二人は、帰路についていた。どうせ実家住まいなのだろうと思い、僕のほうから彼女を誘ったのだ。
「変わったね、――エリ」
スクールバッグを両手で持ち、女の子らしくゆっくりと歩く彼女を見据え、僕は改めて彼女の名を呼ぶ。それは、彼女にとっての"フクちゃん"と同じく、僕がかつて彼女にあてていた愛称だった。
「そう、かな……」
「うん……」
中学生の頃までの彼女といえば、いつもショートヘアーの黒髪に、健康的に焼けた肌と、活発な姿――そういう、今とは正反対の印象の女の子だった。それが、ものの一、二年程度でここまで落ち着いた印象に変わるというのは、正直驚きだった。これが都会マジックというやつなのだろうか。
「……向こうは、どうだった?」
「うん……えっと、私なんかより、フクちゃんは?」
「えっ?」
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