同級生（オリジナル版）

同級生

　　　　　序

　夏実は白いノートを広げた。鉛筆がいつまでも動かない。自然と安吾の表情が蘇る。あの時の白い肌に浮いた後ろ首のホクロが印象として過ぎった。生まれなからの栗色の巻き髪に映える安吾の笑顔。遠くからも彼だと分かる安吾の声。緑の鮮やかな中で生きいきと生命の讃歌を歌い山肌を渡る風の中に立つ安吾。父親の水田を手伝っていた安吾の出で立ち。頭で安吾を何度蘇らせてみても、母へ送るために買ったノートは一向に埋まらない。立て掛けてあるiPadの安吾の姿を見つめた。彼女は喜びとともに安吾のために苦しみたい気もした。夏実はノートに、
《樹里安吾》
　と認めた。その文字を見詰める。夏実に一日の疲れが降って来て、彼と過ごした情景の中へ、やがて瞳をつむるのだった。

　私はふたりの永遠を願って、筆を起こしたいと思う。

　　　　　１

「静かにすること！　みんな席に着け。始めるぞ、いいかな。今日からみんなは同級生だ。先生は一週間考え込みました」
　入学間もない子供達から忌憚のない笑い声が起こる。