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「静かに。いいかな。この時間は、みんなの友達のニックネームを見つけてみようと思うんだな。ニックネームって聞いたことあるかな? 案ずるより産むが易しと言っても、こんな言葉分かんないよな。じゃ案ずるより産むが易しで行こう」
笑い声がまた起こる。
「じゃ始めるぞ。いいかな。それで、このクラスにはあ行の友達はいないから、一番バッターは、か行の樹里君。きさとあんご君でいいのかな。みんなの永遠の友達、樹里君をどう呼んだらいいかな? ふざけちゃ駄目だぞ」
まだ新任教師である島田がクラスの三十名に呼び掛ける。
「ねえ先生、きさと君ってどう書くの?」
これからナツミと呼ばれる柴原夏実が活発な声で島田に話し掛ける。視線の動きから少女の心情を読み取った島田は、首を傾げて夏実に笑顔を向けた。
「柴原夏実さんは、しばはらでいいんだよね。何かないかな?」
「先生、字を書いてみてよ!」
夏実は島田を押し返す感じで繰り返した。
「柴原、いいな」
ざわざわっと囃したてるような声がした。それを聞くと夏実は対決姿勢のような表情になった。
「夏実姫はすぐに怒る」
「エライ目に遇うぞ!」
夏実は自分が揶揄されている事を黙って遣り過ごした。
「夏実姫。姫のお眼に適ったのは、樹里安吾だって」
「夏実姫、夏実姫!」
「こらっ、勝手に話をする時間じゃないぞ。いいかな」
島田がクラスを制しに入った。
「夏実姫だなんて、源氏名だよ」
反撥して夏実は言った。
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