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「柴原は源氏名っていう言葉も知っているんだな」
と島田は感心した。少女は少し恥じらった。
「私、知らないよ」
夏実は無視したい気持ちで言う。
「先生も知らないよ」
「俺も知らない」
「私も」
「知らない!」
生徒達も合わせた。
「こらこら。みんなが知らない、知らないじゃ困るんだ。いいかな。きさとあんご君とはこう書きます」
ホワイト・ボードにマーカーをキュッキュッとさせながら書き出された安吾の名前を「ジュリアンゴ」と読む女子生徒がいた。柴原夏実だ。
「ジュリアンか。外国人みたいだな」
と島田が言っていると、当の安吾がすっと席を立ち上がって廊下へ行き、水の入ったバケツを手に取った。そして近くの女生徒に頭からバッサリと冷や水を浴びせたのだ。周囲は唖然とした。
「樹里、なにをするんだ!」
クラスの中の、今までの空気が総て吹き飛んだ。安吾に水を掛けられた女子生徒は、佐藤亜利沙と言った。亜利沙は頭から足先まで水浸しで、あたりにも水滴が飛散していた。
「亜利ちゃん、ごめんな。風邪引くよなあ」
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