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周囲の幸せそうに見えているカップルのほとんどが、なにかしらの問題を抱えているのに、それが見えていない。見知らぬ誰彼に見せ付けるために、虚栄心から来る演技に明け暮れている事を知らない。本人達の抱える苦しい、憤懣やるかたない実情と言うものがある。暴力的な程の虚構の社会を知るナツミなのであった。そんな現実の砂漠に立つナツミのときめきは、まさしくジュリアンに定まった。真っ直ぐな視線を忘れず、あらゆる物事に正面から立ち向かおうとする気概。幼き頃と変わらないジュリアンの瞳に、逆らい難く引き込まれるナツミなのだ。
《ジュリアン。わたしの思いはジュリアンひとりよ。わたしのジュリアン。見掛け倒しの男達に眼が向かうそれって、良くないよ。ジュリアン、自分のこころに耳を澄ませみて》
そこはかとなく綺麗な瞳も、喜びまで讃えて、空っぽな男達にまんまと唆されてしまいそうだ。街の一角で突如と燃え盛ったひとつの命が急にはらはらとさせられている。
《自分を安売りするのはやめて!》
ナツミはこれ以上我慢できなくなって、一直線に駆け寄って行った。
「ジュリアンさん、今日はお買い物?」
彼女はジュリアンを一気に自分に引き寄せさせた。ナツミもナツミで、普段以上の自分を出しているのである。それでも彼女は、都会を歩く女性達に引けを取らない女性に成長しているのだ。
「ジュリアン。わたしを知っているでしょう?」
唆そうとしていた青年達は、今までの事はもうまったく忘却に伏してしまったかの如く素早く、半ば軽佻浮薄に彼女に態度を切り替えるのだ。
「ジュリアン! 買い物ならご一緒遊ばせ。いいわよね!」
「ナツミ? あの時のナツミ? あの源氏名のナツミ? 本当なのかよ。大体こんなところでなにしているんだ?」
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