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「ジュリアン! これから廃れたこの街で、素敵なデートをわたしにさせてごらんよ。わたしを連れてただ得意な勉強の話で歩くのなら、わたしジュリアンを奈落の底へすぐさま突き落としてあげる。精神病院でも叩き込んであげるわ」
ナツミの言うことを、半ば消化不良のまま受け入れたジュリアンは、勢い彼女の手を取った。そこまでは良かったのだが、その後が続かない。ありきたりな男達となんら変わらないのだ。ジュリアンはドギマギしていた。
《どうしたらいいのだろう? 分からない!》
まったく脅迫観念に苛まれる状況に彼は追い込まれた。
「天気いいよね」
とナツミが投げ掛けてあげると、
「そうだね」
と返す。表情が硬い。
「アーケードあるから、空は見えないんだよね、ジュリアンさん」
「さ、さっきさあ、空、晴れていたよ! ナツミも見ていたじゃないか」
「知らないよ」
「嘘つくなよ、見ていたじゃないか!」
「空なんて見ていないもの。起きてから、一度も」
と、ナツミはそっぽを向く。
「そんなことあるもんか!」
「見ていないって、言っている」
「そう。そうだよ」
幸い徐々にいつもの状態に戻って行った彼は、次のような言葉を放った。
「ナツミ、心理分析でもやってるの?」
「ええ、ジュリアンの心理分析なら、やってあげたいところよ」
《やっぱり、ナツミって怖い》
そんな思いをナツミには少しも悟られないように、ジュリアンは気丈に振る舞ってみせるのだ。
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