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クソのように積みあがったクソのような残業を終えて深夜0時過ぎにやっと自宅に帰ったら部屋からあらかた家財道具が消えていて、ついでに婚約者も消えていた。
つい先日、アメリカから帰国した婚約者を空港まで迎えにいったばかりだった。感覚としては夜逃げという単語が一番しっくりと来るが、私が会社であくせくと働いている間の昼の日中に悠々と荷物をまとめて業者かなにかを呼んで堂々と出ていったのであろうから、こういうのは昼逃げとでも言うべきなのだろうか、などと考えてみるものの、とにかく疲れ果てていた私は熱いシャワーを浴びてベッドに倒れ込むなり意識を失うように眠りに落ちた。翌朝、サンサンと差し込む朝日が眩しくて目が覚め、ようやく私は窓からカーテンすらも無くなっていることに気付く。人生最底辺に真っ逆さまに転落中の私にはもはや一般人並のプライバシーすらも許されないのかと、たまらなく惨めな気持ちになり、婚約者が出ていったことよりも42型液晶テレビや30リットルのヘルシオやダイソンのサイクロン掃除機が無くなっていることよりも、なぜだかこれが一番堪えた。しかし、いくら金目のものは全部持っていこう思ったのだとしても、いくらそれが川島織物の高級遮光カーテンだったからといっても、夜逃げするのにカーテンまで持っていくか普通。カーテンだぞ。ファック。
とはいえ、せっかく早起きできたことだしと早々にスーツに着替えて出社することにする。どうせ部屋に居たってカーテンすらありはしないのだ。着替えももう丸出しだ。中年の着替えなんか見たければいくらでも見るがいい。これが生存ラインギリギリ人生最底辺の会社人のリアルな生態だ。見ろよ! ほら見ろよ! そして今夜も帰宅するのは深夜0時を過ぎてからだ。カーテンを買いに行く暇もありはしない。二日もすればサンサンと差し込む朝日で目覚める生活にも慣れてくる。むしろ身体の調子がいいくらいだ。くそったれ。
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