1章 高校二年 春

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1章 高校二年 春

<1-1. 放課後> あれほど楽しみにしていたゴールデンウィークが終わって二週間。 岩佐さくらは一礼して職員室の扉を閉めた。廊下の窓に広がるぼんやりとした薄青い空を見上げて、フーと息をはいた。 美雪はまだ教室にいるだろうか。 階段を上がり、二年B組の教室へと向かう。高校受験が終わり平和な日常をやっと実感し始めたと思っていたら、今度は大学受験という最終決戦の足音が聞こえ始めてきた。もう少しこの平和な時間を親友の美雪たちと一緒に過ごしていたい。そんな裏腹な気分を抱えずにはいられない。 階段を上がりきり、左に曲がる。 教室からクラスメイトの葵と明日香の声が、放課後の廊下にまで響いていた。教室の扉を開けると、教卓を囲んで葵と明日香、それに美雪もその輪に加わっているのを見つけた。 「美雪、行くよー」 さくらは扉にもたれたまま美雪らの居る教卓の方へ声を掛けた。葵と明日香は両手を合わせ、よろしくねと美雪に言って、さくらの方へ行くように促した。 さくらにとって、葵と明日香は二年になって同じクラスになり、美雪を介して話す機会が増えてきた。葵ははつらつとした感じで、人懐っこく、他のクラスにも友達が多かった。明日香は少し大人びた容姿で、先輩たちとも気軽に話している姿をよく見かけていた。 「葵と明日香、何って?よろしくって言ってたけど」 さくらと美雪は、いつものように新体操部の部室へと続く渡り廊下を、並んで歩いていく。春の暖かな日差しが二人にぼんやりとした影をつくる。 「さくらこそ、職員室に呼び出されてたけど、何かあったの?」 「英語のヤスコ先生。夏の『英語キャンプ』に参加しないかって」 「ふーん、それはちょうど良いかも」 美雪は葵と明日香からの頼まれ事が案外、簡単に解決しそうな感触を掴んだ。 「葵と明日香も、同じ『英語キャンプ』の話」 「あの二人が?」 「さくらと私と一緒に参加しようって」
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