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「先生は何しに来たんですか?」
「三浦先生から相談を受けたからね」
「関わるなってことを言いに来たんですか?」
「いや、君の気持ちはわからないでもないんだ。ただ三浦先生も困っていてね」
「俺はただ挨拶しているだけですよ。無視されていますけど。挨拶もするなってことですか?」
「いや、だだね。三浦先生のことを考えてほしいってことなんだ。この学校へ転任してきた理由は、噂で君もしっているだろ?」
「知っていますよ」
「三浦先生が病気のお母さんを一人で支えているのは?」
「知っていますよ」
「君の行動が先生にどんな影響を与えるかはわかるよね?」
そんなことはわかっている。でも、衝動を止められなかった。挨拶すら拒まれることで苛立って、避けられることで想いが返って膨れ上がってしまう。
「バレなきゃ問題ないですよ」
捨て台詞みたいに言い放って誠司は教室を出ていった。長い廊下を歩く間に、葛西の足音は聞こえなかった。本気で説得なんて考えてないのだと思った。そんな人間に頼った三浦を理解出来なかった。
階段を下りるとちょうど職員室から出てきた三浦を見つけた。その向かい側から学年主任の大原が下校する生徒に挨拶しながら歩いてきた。三浦とすれ違った大原は視線も合わせず無言で通り過ぎていった。まるで三浦の存在が見えていないようだった。三浦は生徒に対して壁を作っているけれど、教師に対しても同じように距離を取っていた。
「あんな奴しか頼る人がいないんですね」
誠司が三浦とすれ違いざまに言い放った。そんな嫌味で関心を引こうとしている自分が情けなかった。どうせそんな嫌味も空振りに終わるのをわかっていた。だけど、弾けたような音と共に、左頬に激しい衝撃を感じた。それが三浦に叩かれたことだと認識するのに一つ間が開いた。
「葛西先生のことを知りもしないくせに」
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