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そして、翌日も誠司は2-8へ呼び出された。今度待っていたのは三浦だった。誠司が教室へ入っても振り向くことなく、窓際の席に足を組んで座って空を眺めていた。背中は怒っているようにも見えるけど、その表情はやはり精気を感じなかった。
「何の用?」
「どうするつもり?」
誠司の問いかけを無視して三浦が問いかけた。三浦が聞きたいのは昨日の葛西のことについて。つまり不倫関係であることを黙っていてくれるのかってことだった。
「葛西に泣き付かれたのかよ」
「黙るの? 黙らないの? どっちなの?」
一方的な会話を続ける三浦。誠司の入り込む余地を与えない態度は、葛西に対する想いの強さだった。
「葛西の奴、俺に泣いて土下座していたよ。全部赤ん坊と奥さんのためだったけど。先生のことなんて何も言ってなかったよ」
「わたしの質問の答えは?」
「嫌だ」
「お願い」
「無理」
嫌や期に入った赤ん坊のように三浦のお願いを拒み続ける誠司。凛と咲いていた花がしおれていくように、三浦の表情が弱々しく憂いていく。
「付き合ってあげるから誰にも言わないで」
教室へ差し込んでいた西日が雲によって切れた。電気を点けていなかった教室が陰に染まって、舞台の幕が下りたように暗くなった。誠司は望んでいた結果を手にしたはずなのに、バッドエンドで話が終わったように思えた。
「何であんな奴の為にそこまでするんだよ」
「愛しているから」
聞いた誠司自身が傷つくバカな質問。
「何であんな奴を」
その理由までは三浦は答えなかった。手に入れた宝箱は軽くて空っぽなのはわかりきっていた。それでも今日はまだ開けてみようとは思わなかった。
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