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待ち合わせ場所は路線を2つも乗り換えた先の映画館。三浦に何を観たいのかを聞いても任せると言われていた。とりあえずラブストーリーで悩んで、アメリカのセレブ女性たちが主人公の映画に決めて、まだ現れない三浦のチケットも先に買っておいた。
上映時間は13:30。待ち合わせの時間は12時。映画の前にお昼ご飯を一緒に食べる予定だった。そして、現在の時刻が12:10。三浦からの連絡はない。
誠司も連絡を取ろうとはしなかった。三浦の番号をいまだに教えてもらえてなったからだ。結局上映時間を迎えても三浦は現れず、仕方なく一人で映画を鑑賞した。
内容はまさかの性に奔放な女性たちのベッドシーンが満載だった。観終わってポスターを見るとR-15の指定に気づいた。学生証を忘れていたので受付では見せなかった。適当なスタッフに助かったけど。三浦と一緒に観ていたことを想像するとゾッとした。だからといって、すっぽかされたことに納得がいくはずがなかった。
「何で来なかったんだよ」
「母が体調を崩したから」
何かにつけて母親を理由にしてくる三浦。誠司が引き下がるのをわかって使っていた。結局、ふたりきりになれるのは2-8の教室だけ、人目を気にして声を殺して、息苦しくって仕方なかった。もう誠司はそれもうんざりしていた。
「携帯出して」
「なぜ?」
「俺が番号登録する」
「自分で出来るよ」
「いいから出せよ」
誠司は声を殺すことなく張り上げて強引に三浦の携帯を奪い取った。画面に三浦の暗証番号を打ち込んだ。だけど、ロックは解除されず、もう一度打ち込んだ。やはり解除されなかった。打ち込んだ番号は三浦の誕生日。間違うはずはなかった。
「暗証番号は?」
「教えなきゃいけないの?」
「当たり前だろ」
「ずいぶんな束縛だね」
三浦はこの教室に来ると必ず座る席があった。初めの頃は外から見えない廊下側の席に座っていた。それが近頃、決まって窓際の一番前の席に変わった。外からも廊下からも見える場所。逆に人目を気にして死角に立つのは誠司の方だった。
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