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「0618」
三浦が暗証番号を教えてくれた。何を思って教えてくれたのか見当が付かなかった。半信半疑で打ち込むと、画面のロックは解除され、誠司は自分の携帯番号を打ち込んだ。LINEも交換してやることを終えた。これで三浦の携帯に用はなくなった。だけど、返すことに躊躇していた。それは、暗証番号の数字の意味が気になっていたからだ。
以前は三浦自身の誕生日だった。そう考えると誰かの誕生日なのかなって誠司は思えた。浮かんでくる人物は葛西だった。
「気になるの?」
「何が?」
「暗証番号」
三浦は手に取るように心を見透かして、おちょくった表情で微笑んだ。
「誰かの誕生日なんだろ?」
「そうだね」
「誰だよ?」
「この世で一番大切な人」
三浦のワザと曖昧にした言葉。この世で一番なんて大げさな表現。誠司の表情を覗き込むような視線。
「くだらねぇ」
そんな誠司の強がりの台詞。本当は葛西のことなのかを知りたいくせに、興味がないって顔して、聞かずに去った。
三浦との関係で手に入れたモノはいくつかある。だけど、その度に堆積していくのは処理が出来ない苛立ち。今日手に入れたモノは暗証番号と携帯番号とLINE。それらは人と人を繋ぎ合わせるツールにもかかわらず、電話をするのもLINEを送るのも誠司から。三浦から送られてくることは一度もない。返信がくるのもごく稀で、気持ちの繋がりがないってことを痛感するだけだった。
誠司が部屋にこもって、携帯を握り締めながらベッドに倒れ込んだ。いつまでも既読にならないLINEの画面を確認するたびにベッドを殴った。連絡を待っていることが女々しく感じて携帯を手放した。そんなことをした途端に三浦からの返信が届く。
(母の体調が悪いからその日は会えない)
会いたいと願ったのは4日後の日曜日。未来でも見えてんのかよって画面に向かって悪態をついてLINEの画面をスクロールすると、同じような断りの返信が繰り返されていて逆に笑えてきた。
(母が検査なの)
(母の病院に行かなければならない)
(母のことでお医者さんと話さなければならない)
母・・・母・・・母。画面を埋め尽くす母親の言い訳を見ていると、番号を知ったことに後悔すら感じた。
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