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(会いたい)
(無理)
(いつなら会えるの?)
(母の体調次第だから、当日にならないとわからない)
(体調が良かったら会えるってこと?)
(そうだね)
(じゃあ、日曜この前の映画館で待っているから)
(今週は無理)
(待っているから)
既読になった。返信は返ってこなかった。日曜日は6月18日。三浦の暗証番号が示す日だった。
日曜日になって、来ないとわかっていながら誠司は映画館へ向かった。1時間半かけての道のりで1通だけLINEを送った。返信もなくて、既読にもならなかった。
誠司は映画館に着くとアメコミの実写映画のチケットを1枚だけ購入した。入場まで30分をロビーのソファーに座って待っていた。三浦に電話を掛けてみたけど出ないし、折り返しもなかった。
映画を一人で観終わった。内容は悪くなかったのに、全然楽しめなかった。照明の落とされた劇場内で携帯の光が漏れないように気を使いながら、三浦からの連絡を何度も確認したせいだった。結局その日は、三浦からの連絡がないまま1日が終わってしまった。
「おはよう」
翌日、学校の廊下で誠司が葛西とすれ違った。葛西の挨拶を無視してやった誠司。だけど、避けたいと思っているのは葛西の方で、誠司の行動は仕返しにもなっていなかった。誠司が振り返って葛西の後ろ姿を見た。その背中が勝ち誇って見えたのは誠司の被害妄想。
「先生」
葛西を呼び止めた誠司。誕生日を聞こうとした。暗証番号の秘密を知りたかった。昨日、三浦と一緒にいたのか知りたかった。だけど、葛西は振り返らなかった。
まさか誠司に呼び止められるとは葛西は思っていないし、生徒自体に呼び止められることがほとんどない葛西。先生とだけ言われても、自分と思わず振り向くことはなかった。
「早く教室へ戻りなさい。HR始めるぞ」
後ろから追いこしてきた学年主任の大原の言葉だった。大原の向かう先は誠司の教室。壇上に立った大原が三浦の欠席を生徒に告げた。病の母親が危篤の状態だと言った。そして、三浦はこの週をまるまる休むことになった。
三浦のことを疑って、母親を言い訳にしていたと思い込んでいた誠司。自分の間違いに気が付いた。
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