雪虫

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「三浦の行先決まったって。北海道だって」 「いつ行くの?」 「今日だって」  川沿いに建てられた横に長い校舎の中学校。かつて8クラスで満たされていた教室の現在は、各学年2クラスにまで減っていた。  閑散とした校舎。長く伸びた廊下。走る男子たちの足音が響き渡って、彼らの声が山びこのように運ばれ、使われなくなった教室でふて寝していた誠司の耳に届く。  誠司と三浦が付き合ってもうすぐ1年になる。なのに、手を繋いだこともなければ、登下校すらしたことがない。まともにデートなんてしたことがなかった。  外から聞こえて来た「夕焼け小焼け」のメロディー。防災無線の子供に向けた下校を促す放送。階段を降りていく同級生たちの足音が聞こえた。誠司は外を見ていた。紅くて温かみのある夕日を見ていた。その視界の中に、小さな白い粒がふわり、ふわりと漂った。雪かなって思って窓を開けて、手のひらに乗せた。雪虫だった。 「よい子のみなさん。もうすぐ日が暮れます。事故に遭わないように早く帰りましょう」  防災無線を真似した台詞。ふて腐れていた誠司をからかったのは三浦だった。からかったのは誠司を怒らせたいから。怒った誠司を見ることが三浦の楽しみだった。 「雪虫?」  三浦が誠司の背中から覗き込むように手のひらの雪虫を見た。座っていた誠司の肩に、三浦の長い髪が触れる。付き合って1年も経つと言うのに、誠司の体が強張った。
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