0人が本棚に入れています
本棚に追加
「三浦の行先決まったって。北海道だって」
「いつ行くの?」
「今日だって」
川沿いに建てられた横に長い校舎の中学校。かつて8クラスで満たされていた教室の現在は、各学年2クラスにまで減っていた。
閑散とした校舎。長く伸びた廊下。走る男子たちの足音が響き渡って、彼らの声が山びこのように運ばれ、使われなくなった教室でふて寝していた誠司の耳に届く。
誠司と三浦が付き合ってもうすぐ1年になる。なのに、手を繋いだこともなければ、登下校すらしたことがない。まともにデートなんてしたことがなかった。
外から聞こえて来た「夕焼け小焼け」のメロディー。防災無線の子供に向けた下校を促す放送。階段を降りていく同級生たちの足音が聞こえた。誠司は外を見ていた。紅くて温かみのある夕日を見ていた。その視界の中に、小さな白い粒がふわり、ふわりと漂った。雪かなって思って窓を開けて、手のひらに乗せた。雪虫だった。
「よい子のみなさん。もうすぐ日が暮れます。事故に遭わないように早く帰りましょう」
防災無線を真似した台詞。ふて腐れていた誠司をからかったのは三浦だった。からかったのは誠司を怒らせたいから。怒った誠司を見ることが三浦の楽しみだった。
「雪虫?」
三浦が誠司の背中から覗き込むように手のひらの雪虫を見た。座っていた誠司の肩に、三浦の長い髪が触れる。付き合って1年も経つと言うのに、誠司の体が強張った。
最初のコメントを投稿しよう!