0人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫?」
2-8へ入った誠司が声を掛けた。三浦はいつもの窓際の席に座って、机に顔を伏せていた。誠司には泣いているように見えた。
「何が?」
顔を上げた三浦は泣いていなかった。その表情は悲しみというよりは苛立ちが浮かんで見えた。
「みんな笑っていたから」
「そんなこと今さら気にしないから」
「なら何でここに来たの?」
「職員室にいると、色々と声掛けられて面倒だから、君みたいにね」
三浦が誠司へ視線を向けた。嫌味に対して誠司のリアクションを伺っていた。
「迷惑?」
「気づいてないの?」
三浦が期待していたリアクションは苛立ち。だけど、母の死を聞いた誠司は心配の方が上回っていた。
「昨日電話に出られなくてごめん。マナーモードで気づかなかった」
「気にしないで、あれ間違い電話だから。本当は葛西先生にするつもりだったの」
なおも続く三浦の挑発。だけど、葛西との繋がりが断ち切れていることを誠司はすでに知っている。どうして三浦がそんなことをしたいのかはわからないけど、どうしても誠司を怒らせたいことは理解出来た。誠司は三浦の求めている姿を演じてあげた。
「ふざけんなよ。こっちは心配してやってんだぞ」
誠司は上手くやれていたのか不安で、三浦に対して背を向けた。
「わたしが先週の日曜日って誰と会っていたと思う?」
「知りたくない」
「ヒントはこの世で一番大切な人」
葛西とは会っていないことは知っているし、この世で一番大切な人でないことも知っている。そんなことを知らない三浦が痛々しかった。
「葛西先生とのこと言いたいなら、周りに言ってもいいよ」
「なんだよいきなり」
「言えないの?」
「葛西がどうなってもいいのかよ?」
「よくないね。でも、そうしたら私も学校辞めなくちゃならないね。君と会えなくなるんだね」
「脅しているの?」
「そうだよ」
「ふざけんな」
そう言って誠司が振り返ると、三浦は満足そうに優越感を顔に浮かべていた。足を組んで座る姿が空しく見えた。誠司は胸が苦しくなるほど同情が湧き起こった。
最初のコメントを投稿しよう!