雪虫

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「大丈夫?」  2-8へ入った誠司が声を掛けた。三浦はいつもの窓際の席に座って、机に顔を伏せていた。誠司には泣いているように見えた。 「何が?」  顔を上げた三浦は泣いていなかった。その表情は悲しみというよりは苛立ちが浮かんで見えた。 「みんな笑っていたから」 「そんなこと今さら気にしないから」 「なら何でここに来たの?」 「職員室にいると、色々と声掛けられて面倒だから、君みたいにね」  三浦が誠司へ視線を向けた。嫌味に対して誠司のリアクションを伺っていた。 「迷惑?」 「気づいてないの?」  三浦が期待していたリアクションは苛立ち。だけど、母の死を聞いた誠司は心配の方が上回っていた。 「昨日電話に出られなくてごめん。マナーモードで気づかなかった」 「気にしないで、あれ間違い電話だから。本当は葛西先生にするつもりだったの」  なおも続く三浦の挑発。だけど、葛西との繋がりが断ち切れていることを誠司はすでに知っている。どうして三浦がそんなことをしたいのかはわからないけど、どうしても誠司を怒らせたいことは理解出来た。誠司は三浦の求めている姿を演じてあげた。 「ふざけんなよ。こっちは心配してやってんだぞ」  誠司は上手くやれていたのか不安で、三浦に対して背を向けた。 「わたしが先週の日曜日って誰と会っていたと思う?」 「知りたくない」 「ヒントはこの世で一番大切な人」  葛西とは会っていないことは知っているし、この世で一番大切な人でないことも知っている。そんなことを知らない三浦が痛々しかった。 「葛西先生とのこと言いたいなら、周りに言ってもいいよ」 「なんだよいきなり」 「言えないの?」 「葛西がどうなってもいいのかよ?」 「よくないね。でも、そうしたら私も学校辞めなくちゃならないね。君と会えなくなるんだね」 「脅しているの?」 「そうだよ」 「ふざけんな」  そう言って誠司が振り返ると、三浦は満足そうに優越感を顔に浮かべていた。足を組んで座る姿が空しく見えた。誠司は胸が苦しくなるほど同情が湧き起こった。
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