雪虫

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「可愛い」  雪虫に対して言ったのか、誠司に対して言ったのか。三浦のあいまいな言葉は誠司を苛立たせる。誠司は無言のまま立ち上がって立ち去ろうとした。 「帰っちゃうの?」  引き止めるような三浦の甘い言葉。 「そっちが帰れって言ったんだろ」  語気を強めた誠司の言葉に、三浦は嬉しそうに笑った。 「笑ってんじゃねーよ、ムカつくな」  感情を弄ばれているのはわかっている誠司だけど、冷静にあろうと抗っていても、一枚も二枚も上手なのは三浦だった。 「もうすぐお別れだね。寂しくなるね」 「だったら、行かなきゃいいだろ」  誠司の膨れ上がった想いは常に一方通行。自分と同じだけの熱量を求めている訳じゃない。ただ一言好きだと言ってくれるだけでいいのに、三浦は決して言わなかった。 「行くなよ。俺と一緒にいればいいじゃん。俺マジなんだよ、好きなんだよ」 「わかっているよ。でも、無理」 「どうして?」 「どうしてだと思う?」  誠司の質問に対して質問で返す三浦。誠司が黙り込んだのは苛立ちから。三浦が誠司の正面にまわりこんだのは、そんな誠司の顔を見たいから。 「答えなさい。これは簡単な問題ですよ」 「俺が生徒で、あんたが教師だからだろ」  三浦は国語の教師で、誠司の担任だった。 「違います。君のことを愛していないからです」
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