雪虫

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 その日の昼休み。トイレへ向かうと2年の廊下に1年の2人組の女子が立っていた。背が低い子と高い子の凸凹コンビ。誠司はふたりの顔も名前も知らなかった。  ふたりは誰かが通るのを待っているのは明らかで、誠司が横を通り過ぎる直前に会話を止めた。暇を持て余すように背の低い子がリボンに触れていた。どうやらターゲットは誠司で、本命は背の低い子。背の高い子はその付き添いだった。  誠司がトイレから出てきてもふたりはそこに立っていた。背の高い子が肘で低い子を小突いたのが見えた。だけど、低い子は指示とは裏腹に俯いてしまった。誠司から声を掛けることもなく通り過ぎていった。見てはいなくてもふたりのやり取りが想像できた。低い子は意気地なしだとどやされているに違い。誠司はそんな低い子の情けない姿を自分に重ね合わせた。  誠司はこれまで一度もプライドなんて自覚したことがなかったけど、三浦を意識してから生じる苛立ちと感情を振り回されたことで感じる劣等感によって、初めて自分のプライドというモノを自覚した。  三浦のことを本気で好きだとは認めたくない。だからこそ振り向かせたくなった。  三浦に罰ゲームを仕掛けた日から1ヵ月が経った。誠司はめげることなく朝と帰りに廊下で待ち伏せをして、挨拶をするけど無視をされ続けていた。  振り向かせたいと思ってはいても会話も許されず、足すらも止めてもらえない状況に成す術がなかったのが現状だった。  この日の朝も廊下で待ち伏せて挨拶をして無視された。それはわかりきっていたことでいちいち腹も立たなかった。 「放課後空いている?」  通り過ぎたはずの三浦が振り向いて言った言葉。あまりにも突然で返す言葉が誠司には思いつかなかった。 「空いているの? 空いてないの?」 「空いているけど」 「じゃあ、2-8で待っていなさい」  職員室でもなく、進路指導室でもなく、わざわざ人の寄り付かない2-8での待ち合わせ。ふたりでいることを誰にも知られたくないのだと誠司は思った。誠司は期待なんて抱くことはなく、バットエンドのフラグが立ったの感じた。
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