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彼女は、わたしになくて、わたしが憧れるものを、すべて持っている。
戸島さんを意識した日は特別でもなんでもなかった。ただ、早く起きただけ。
制服が夏服から冬服に衣替えして数日。
金木犀の匂いのするやわらかい風がふく朝。
教室に着いたら本を読んでいる彼女がひとりいた。
わたしが入ってきたことにも気づかないほど、本に集中していたらしい。
私はそんな彼女をカバンも置かずに眺めていた。
図書室で何年も眠っていたのが一目でわかるほど黄ばんだ本を読んでいた彼女がとても印象的に見えた。
わたしには何年も借りられていない古い本を探して読むという、他人にいわせると、ちょっと変わった趣味がある。
だから、余計に意識したのかもしれない。
戸島さんは誰とも一緒にいない人だった。図書室。屋上。街を見下ろす校庭の端。
いつもひとり。わたしも、おなじ。
そんな誰とも一緒にいない人だったから放課後呼びだすことができた。
できてしまった。
それで真っ白な封筒に入った手紙を差し出して「お友達になってください」……だ。
ちょっと唐突すぎるかなあ……とも思ったけれど、やはりというか、戸島さんは目を見開いていた。
クールな戸島さんでもいきなりこんなこと言われたりすれば驚くんだと、ちょっと意外に思った。
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