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丘陵の稜線に沈みかける夕陽が空を虹色に染めていく夕暮れの情景が、いつもより綺麗に、キラキラとして、虹より美しい夢色に輝いて見える。一日にいちど、たった三十分にも満たないマジックアワー。
緩やかに流れる大きな河と、そのすぐ背後に迫る、山というには低く丘というには高い高地帯に挟まれた、わたしたちの街、新田ヶ丘。
ここは戦後昭和と呼ばれる時代に開けた住宅街なので、あちこちに名物の梨を作る農地や水田、江戸時代から僅かに残る旧家の蔵屋敷が点在する静かな街だ。河を渡れば都心部まで急行電車で二十分というのが信じられないぐらいに長閑かな街。……街というより『町』という字が似合う、そんな場所。
でも、わたしはこの町が好きだ。だって背の高いビルが殆どないから空が広いもの。
陽が暮れて暗緑色に染まった丘陵の斜面にぽつんぽつんと建った団地や住宅のひとつひとつに明かりが灯っていく様子は星空が空から降りてきて地上とつながったみたいで面白いし、違う世界の入り口なんじゃないかって、子どもの頃から思っていた。
だから、この夕暮れ刻に真琴さんとふたり長い下りの坂道を歩く今が堪らなく愛しい。
ああ。街道沿いの辻堂にいらっしゃるお地蔵さま。わたしと真琴さんに幸せを下さい。
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