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賑やかなのは丘陵の頂にある遊園地だけ。若者が集まる場所は学校ぐらい。
わたしたちの通う学校は、標高七十メートル。丘陵の頂近くにある。
戸島さんとお友達になった次の日の放課後、わたしは戸島さんに一生のお願いをしてみようと心に決めていたのだ。
「鴻池さん、一緒に帰ろう」
わたしが心に改めて決意を刻むと同時に戸島さんの少年声がわたしに降りかかる。
気が付くと戸島さんはわたしの席の前に来ていたのだ。
「あ、う、うん。良いよ」
あまりにもぎこちない返事をしてしまった。戸島さんは気にした風もなく、わたしを待っていてくれた。
学校から出てわたしは開口一番に言った。
「戸島さん……。あの、実は、お願いがあるんだけど……」
「お金以外だったらなんでも聞く」
「つまり、お金以外ならなんでも良いということですか」
「飛躍しすぎだけど、そうかも」
お金以外……だから平気だよね……。
「わたしのこと、下の名前で呼んで……ほしいな……」
戸島さんはキョトンとした顔をしたあと微笑んだ。
「鴻池さんのことだからもっと無茶なこと言われるかと思ったよ。それぐらいだったら良いよ。鴻池……。えっと鴻池……あれ……鴻池…… 」
鴻池……。鴻池……。と何度も繰り返す戸島さんを見かねてわたしは口を出した。
「静枝だよ! 覚えていなかったの!」
全く、予測していなかった。まさか、名前を覚えてもらえていなかったなんて。
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