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そんな風に更衣室の前で逡巡していると、不意に女子更衣室のドアがガラッと開いた。あまりに突然にドアが動いたので、僕は驚いて「アッ」と声を上げて後ずさってしまった。
「きゃっ!?」
ドアを開けた彼女もまた、驚いた僕の姿を見て声を上げていた。
「な、なに……? あなたは? 下級生?」
彼女は学校指定の水着を着て、大きなタオルを右手に抱えていた。そして混乱した様子で視覚から得られる僕の情報を口にして整理していた。僕は青ざめた表情で、判決を待つ罪人のような気持ちで尻餅をついていた。
「どうしてここに? 今は水泳の授業は……?」
「どうしたのー、アリサー?」
プールの方から別の女性の声が聞こえてきた。ずさっ、ずさっとサンダルを擦る足音も聞こえる。そのときには僕はもう終わりだ、と諦めていた。ここから挽回する方法なんてない。細かいことを放っておけない自分の気質を激しく恨み始めていた。
しかし物事は僕の考えているようには進まなかった。扉を開けた彼女は更衣室から出てきて、尻餅をついていた僕の左腕を取った。そして強引に僕の身体を引っ張り起こして、「ちょっとこの中にいなさい」と言って、僕を更衣室の中に入れた。僕はわけもわからず、勢いで倒れないように踏ん張った。
「アリサ、今、誰かと話して……?」
「ううん、なんでもないわ。すぐに行くから、大丈夫よ」
「そう? 先生も待ってるわよ」
「うん、ありがと」
僕は彼女のクラスメイトとの会話を、女子更衣室の扉越しに聞いていた。そして僕は全てを悟った。僕は間一髪、彼女に助けられたのだ。
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