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夕焼けに染まる校舎の廊下が、大嫌いだった。校庭からは運動部の気合いの入った声が聞こえてきたし、人の減った教室には数人のグループが固まって何かを話し合っていた。音楽室からは吹奏楽の音が聞こえてきた。進路指導室からは教師と話し合っている生徒の真剣な声が漏れ出していた。
その音は誰かの人生そのものだった。地区大会で勝つ、今度どこかへ遊びに行く、発表会のために腕を磨く、そして自分の将来を考える……。夕暮れの廊下を歩いていると、そんな風に他人の人生の間をするすると抜けていくように思えて、彼らに責められているような感じがしてしまうのだ。おれ達はこんなに努力しているのに、お前はなぜそんなところを歩いているんだ? なぜこんな時間まで校舎に残って、廊下をほっつき歩いているんだ?
でもまだ当時高校生だった僕に、そんな感情を言葉にするだけの力は無かった。だから僕は嫌な気持ちを抑えつけるためにある程度我慢しなくてはいけなくて、そうした感情の流れはどうしても表情に出てしまうのだった。
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