プロローグ、僕らにある光

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「そんなに嫌そうな顔をしなくたっていいでしょ」  そんなことを考えていたら、隣を歩いていた一つ年上の橘先輩がふくれっ面でそう言った。 「急に呼び出したのは悪かったわよ。嫌なら断ってくれればいいのに」 「いや、違いますよ。嫌なのは先輩に呼び止められたことじゃなくて……」 「でも帰るところだったんでしょ? 家に帰って、早く日課のネットサーフィンがしたかったんでしょ?」 「日課じゃないですよ」  そんな風に言い争っていたら突然すぐそばの教室の扉が開いて、中から出てきた女性の教師が指を立ててシィーと言った。受験を控えた三年生が補講を受けている教室もあったのだ。僕らは頭を下げて、足早に前を立ち去った。 「怒られちゃったわね」  口げんかの発端が自分であることを自覚していた橘先輩は、さっきとはうってかわってしょげ返った様子で言った。僕にはフランクな態度で接する橘先輩だったが、節度や礼儀を欠いているわけじゃないのだ。むしろいい家の出である先輩の方が、凡庸な家庭の僕なんかよりもマナーを知っている。間違いを犯せばきちんと謝罪するし、目上の人間には敬意を持って接する。だから先輩には友人がたくさんいて、教師からの評判もよかった。その辺りの境遇は、社交性のない僕とはまるで正反対だった。 「でも、ありがとうね。谷合クンが来てくれて、助かるわ」 「いえ、そんな……」  でも、僕はいつも先輩に頼みごとをされると、特に深く考えずに頷いてしまう悪い癖があった。一度頷いてしまったら、後から「やっぱりダメでした」なんて言えるわけもなく、こうして夕方の校舎を複雑な気分で歩く羽目になるのだ。
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