プロローグ、僕らにある光

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 僕らは図書室に入った。夕方の図書室には、自習スペースで数人の生徒がノートとにらめっこをしている以外に利用客はいなかった。  この高校の図書室では、僕が高校に入学する数年前に大改築をしていた。蔵書数を減らして自習スペースを拡大したのだ。その影響で、読書家がわざわざ図書室で本を探さなくなってしまった。  蔵書数が減ることは読書家にとっては由々しき事態だけれど、本を読まない人は何も感じない。当時は図書室の意義が問われる改築に対してそれなりに議論も交わされたみたいだったけれど、自分達の生活の一部が脅かされない限り、人はそこまで身を入れて動けないものなのだ。結局自習スペースを増やしたいという学校側の意向と保護者側の要望に押される形で、図書室とは名ばかりの自習室と変貌してしまったというわけだった。 「鍵、お借りしますね」  先輩は司書のおばさんに断りを入れて、ホワイトボードのフックに掛かっていた鍵を取った。おばさんは僕の姿を認めると、にっこりと笑って頷いた。僕もそれに合わせて笑顔を返した。  僕らは図書室の奥まで進み、本棚の間に挟まるように配置されていた扉の鍵を開けた。扉の鍵はいつもガコッと大げさな音を立てた。先輩が先に扉の向こうに入って、部屋の電気を点ける。チカッ、チカッと何度か点滅してから蛍光灯の電気が点く。それから僕が部屋に入り、扉を閉めて鍵をかける。  古くなった紙とくぐもった空気のにおい、そして部屋の中一面に広がる本棚……ここは本の倉庫だ。
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