追煙

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多分若くて自信満々だった頃の私は、妹を前に、そんな意識高い系みたいなことを言ったのだろう。 “違う景色…か” 確かにいつの頃からか、この店に来ると、公園の木々が見渡せるあの窓際の席にしか行かなかった。 他の席に座っていたこともあるはずなのだが、ほとんど記憶がない。 木々が見渡せる席にこだわったのは、会社の人間関係や仕事に疲れて、季節の移ろいを気にすることすら無くなっていた自分に気づいたからだった。 今は一つの成功体験から、仕事に対して肩の力も抜け、心にゆとりもできている。 因みに仕事の方も、A社の後も他社から大型受注を獲得するなど、とりあえず順調だ。 他人からの僻みや、自分自身の抱えるコンプレックスへの対応も、“ケ・セラ・セラ” 成るように成るさと、気にしないことにした。 “そろそろ、私も違う席に行ってもいい頃かな” 私は、公園の見える窓際の席の反対側。住宅街や商業ビルが見えるだけの窓際の席に、一つ空席を見つけた。 昔なら、人が日々の人生を送っている様子や、あくせく働いている様子を否が応でも見せつけられるこの席を敬遠していたことだろう。 ただ、自分以外の他人の“人生”を感じ、思いを馳せることも、案外悪くないかもしれない。 また一つ、妹に教えられた気がした。     
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