藍煙

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その夜、彼の腕の中でウトウトしていたが、寝返りを打った際に、隣で寝息を立てる彼がいつの間にか腕時計を付けて寝ている事に気が付いた。 以前一度だけ、「せめて私と一緒にいる時くらいは、時間のことは忘れて」と、腕時計して寝ていたことをやんわりと責めたことがあった。 また今夜もだ。 いや、もしかしたら、それ以降もそんなことがあったのかもしれないが、先日の妹ととの口論のこともあったせいか、今夜はそれを見逃せなかっただけかもしれない。 今夜は、再び腕時計をして寝ている彼を見て、それまで自分が堰き止めていた感情が堰を切ったように溢れ出した。 私は起き上がってベッドから降り、床に散らばった彼の服を掻き集めた。 私の突然の行動に気づき、彼も起き上がる。 私は掻き集めた服をくしゃくしゃに掴み、彼の胸元に無言で突き出した。 「な…何? どうしたの?」 「帰って」 「なんで…?」 「いいから。帰って」 私の氷のように冷たい表情にただならぬものを感じたのか、彼も無言のまま急いで服を着はじめた。 ネクタイも締めたそうだったが、そんな悠長なことをしている雰囲気ではないと察したのか、ネクタイは諦めてポケットにねじ込んだ。 彼が服を着るのを側でずっと見ていた私は、着終わった彼の顔見ながら無言で寝室のドアを開け、部屋を出て行くよう促した。     
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