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そして、私に対してははぐらかしてばかりで、絶対に“愛してる”とか“好きだ”と言わない彼。
私といる時でさえ、いつも頭の片隅には奥さんがいるのだ。
以前、自分の中の禁を破って、管理職だけに配られる社員連絡網に記載された彼の住所を調べ、一度だけ自宅まで行ったことがある。
よく晴れた休日の午後の、郊外の団地の中の一軒家。
小さいながらも、幸せそうな家庭。
彼の姿は見えなかったが、庭にはガーデニングに勤しむ若い小柄な女性の後ろ姿があった。
大きく開けられたリビングの窓の向こうから、子供向けテレビ番組の楽しそうな歌が聞こえてくる。
私はしばらくその場に立ち止まり、垣根越しに様子を見ていたが、何かに気づいた庭の女性が立ち上がって振り向いたので、怖くなって足早にそこを立ち去った。
行くんじゃなかったと、後悔して涙を浮かべながら歩いた帰り道。
あの日、何故後悔するのが分かっていながら、彼の自宅に行ったのか。
その当時は自分の行動の意味が分からなかったが、今なら分かる。
幸せなそうな家庭をあえてこの目に焼き付けることで、私も、自分のココロにケリをつけるキッカケにしたかったのだ…
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