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最終章.晴煙
「はい。それじゃそう言うことで。お世話になりました。本当にありがとうございました」
A社の藤野さんから、突然会社に私宛の電話がかかってきた。
すでにあの案件は私の手を離れているので、なんの用事だろうかと訝しがりながら回されてきた電話に出ると、あの案件のオーダーが無事納品されたとのお礼の電話だった。
お礼を言いたいのはこっちの方なのに。
私は電話を切り、デスクの前の山積みになった書類に向かう。
ありがたいことに、この件以来、任される仕事は増えた。
デスクに置かれたままの冷たくなったコーヒーを飲み干すと、ユミコがタイミングよく淹れたてのコーヒーを持って来てくれる。
「あ、気が効くねえ。ありがとう」
「いいえ。私、こんな事くらいしかお手伝いできませんから」
そう言ってユミコは笑った。
結局、あれ以来、ユミコに真相は聞けずじまいだ。
ただ聞いても素直に受け入れられる自信もないし、そもそも、あの日電話で彼から言われた一言が鋭利な刃物のように心に刺さり、聞くことすら出来なくなっていた。
『否定してもらって、自分が楽になりたいだけなんじゃないの?』
あの日、彼に、そう言われた。
本当にその通りだ。
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