155人が本棚に入れています
本棚に追加
ユミコは恐らく、彼とのことを聞いても「違います」と否定するだろう。
彼と不倫をしていることを肯定する筈はないし、ましてや、聞いている私は彼女の上司だ。
“元カノ”である上司の私に、当てつけのように肯定するメリットは、彼女には恐らく、ない。
一方で、彼とは、社内で会っても不自然さを感じさせない程度に距離を保っていた。
彼の方も心得たもので、仕事上でバッティングすることすら無いように上手に自分の仕事をコントロールしている。
さすが若手のエースだ。
私も、いつの間にか、彼への未練のような、それでいて恐れのような、湿った感情は無くなっていた。
社内で彼を見かけても、もう胸のときめきも、動揺も無くなった。
ただ不倫をしていたという、対象も形もない“罪悪感”という感情だけは一向に消えなかった。
そして、この感情だけは一生心の中の抜けないトゲとして残っていくのだと、覚悟もできた。
いつの日か、私にも本当に愛する人ができて、家庭を持つことになったとしても、自分自身にそういう“過去”があるという負い目は消えない。
そして何より、自分の心のリミッターが再び外れ、また同じ選択をしてしまう可能性があることを否定できない自分がいた。
最初のコメントを投稿しよう!