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追煙
いつものカフェのドアを開ける。
「いらっしゃいませ」
寡黙な初老のマスターが、チラッと目だけで迎え入れてくれる。
私に気づいてくれたのか、口角が少し上がった。
私はそのまま二階に上がり、いつもの、公園の木々が見える席に向かう。
階段を上がりふとその席に目をやると、既に先客が座っていた。
私は二階のフロアを見渡し、空席を探す。
といっても、失礼ながらそんなに混雑するようなお店ではない。
店内には、たまに見かける客が何人かいたが、彼等はいつもの席を確保できているようだ。
カフェには、そこから見える景色、ソファや座椅子の触り心地、隣の席との間隔等々、各自がお気に入りの席がある。
私にとっては、二階の窓際の一番奥。公園の木々が見渡せ、かつ、他の客が横を歩くことない一番奥の席がお気に入りだった。
ただ今日はそこには座れない。
第二候補は、同じ公園が見渡せるその奥の一つ前の席なのだが、自分のすぐ真後ろに人がいるとなんだか落ち着かない。
ふと、自分が昔妹に語った(と妹が言う)『頑張って自分を変えた人にだけ見える景色がある』という言葉を思い出した。
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