涙煙

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涙煙

「お姉ちゃん、まだあの人と続いてるの?」 久しぶりに私のマンションを訪ねてきた妹が、ダイニングの椅子の背もたれを抱くように座り、タバコに火をつけながら聞いた。 ストレートに、なんとも答えにくい質問をする。 「うん…、まあ、ね。」 と、言葉を濁す。 もちろん妹の質問は、彼との関係に対して肯定的なニュアンスで出されたものではなく、非難の意味で質問されていることはわかっている。 私自身も、彼との関係は世間的に理解を得られるものではないことは重々承知している。 彼とこのまま関係を続けていたら、いったい自分はどうなるのだろうか。 私は幸せになれるのだろうか。 彼には既に妻も子もいて、彼がそれを私のために手放すつもりがないことは、分かっている。 自分の性格的にも、私の方からそれを彼に求めることができないことも、自覚していた。 こういう関係になってからも、彼も私も一度もそういうことを話し合ったことはなかった。 いや、彼にしてみれば、話し合わないことが答えだったのかもしれない。 毎週金曜日の夜。 私の部屋で、なんとなく一緒に食事し、なんとなくセックスし、なんとなく帰っていく…それの繰り返しでしかなかった。     
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