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「あまねっち、どした? あ、あー置いてきぼりだった……ごめん!」
「あまねっち……? ほぉ、そうか。俺の特別は、この子だ!」
そう言い放つと同時に、私の肩に軽く手を置いた。
「ちょ、ちょっと! やめてよ。私にはその気はないって言ってるじゃない!」
厨房前で舌打ちしていたあの女が近くにいることを気にしたせいか、手を振り払ってしまう。彼に対してキツく怒鳴ってしまった。私のただならない雰囲気を悟ったのか、雪乃さんがなだめるように割って来た。
「あ、あまねっち……落ち着いて! はぁ……あんた、昨日どれだけ迷惑かけたわけ? この子がここまで怒るなんて……」
雪乃さんが西尾に対して厳しく叱っている。
「……いや、俺は何もそこまでひどくは」
私の言葉に驚いたのか、言葉少なに下を向く西尾。
「……雪乃さん。あのっ、この辺で。機会があったら、ゆっくりお話ししたいです」
「勿論。歓迎するよ!」
これ以上ここにいては、事が荒立つだけだと思った私は話を終えた。雪乃さんにも意志が伝わったのか、先に厨房を出て行く雪乃さん。私は下を向く西尾の傍に近付いて、小声で言葉をかけた。
「(あの、私そこまで嫌ってないです)」
「へ? それじゃあ俺と……?」
「だからといって、彼女とかそれは別なので。……じゃあ、また」
雪乃さんが出た少し後に、私も厨房を出て行く。厨房前に群がっていた女性達は、雪乃さんが追い払ったのか、誰もいなくなっていた。
料理をしている姿に見惚れてしまった私は、西尾に対する気持ちが少しだけ和らいでいた。
それはまるで、カチカチに冷えた氷が徐々に溶けだすかのように――
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