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「あ、そうそう、意外かもしんないけど、ここでの料理はあいつが担当してんのよ。才能ってのはまさに料理のことだけど、半端に修行終えてここにいるっていうか……」
「それって、どこかのお店にいたってことですか?」
「いたことはいたけど、すぐ考え方の違いで揉めてやめたんだよね、あいつ」
……やっぱり料理人なんだ。適当に選んだおかずや、デザートを口にするとどれもが美味しい。態度や口調には不快しか残っていないけど、美味しい料理を作れることに関しては見直した。
「あまねっち、またあいつに何か言われたらいつでも言いに来てね? きつく注意しとくから!」
「は、はい。ありがとうございます」
「あ、そうだ! 来たばかりでここ、よく知らないでしょ? 案内してあげるよ」
「えっと、そうですね。お願いします!」
「敬語じゃなくていいのに……お姉さん、寂しいな」
「あはは……そ、その内に」
朝食を食べ終えた後、雪乃さんに付いて歩くと驚くばかりの光景が目に映り込んだ。まさかの地下と、スタジオだった。
「ど、どうしてシェアハウスにこんなものまで?」
「驚くよね? ここってさ、どこかのアーティストが建てたんだ。だけど、売れなくなって困りに困って、手放しちゃったっていうオチ」
生活するだけの空間に、地下があるのも驚いたけど使う人がいるのか疑問に思った。
「すんません、そろそろ使うんで説明、もういいっすか?」
雪乃さんの説明を聞いていると、空くのを待ちきれなかったのかわたしたちに声をかけてきた男の子。
「あ、すみません。え? あ、昨日の……?」
「え? ど、どうも」
私に驚いたのか、話しづらそうにしている。
「おっ、奏(そう)ちゃんじゃない! なになに、知り合い?」
「そんなんじゃないっすよ。音出すんで、扉閉めます」
邪魔して欲しくないのか、スタジオ室の扉を閉め切ってピアノを弾き始めた彼。口調にも驚いたけど、ピアノ奏者ということにも驚きを隠せない。微かに聞こえてくるその音色。心地よさと意外さに心が惹かれた気がした。
「……素敵」
「惚れちゃった?」
「そ、そんなんじゃないです。意外だなって感じただけで」
「総じてアーティストは、見た目とのギャップ違うから萌えるよね。まぁ、奏ちゃんも難しいけどね。付き合うとなると厳しいかな」
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