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小さな窓から低く差し込む陽光が少年の頬を照らしている。方角はわからないが、初夏の夕陽にしては室内は冷えていた。早朝の光なら、少年は少なくとも一晩ここで眠っていたことになる。すると、この部屋の主は夜をどこで過ごしたのだろう。  先に自分のケガの程度を確認しようとして、少年は自分がほとんど服を着ていないことに気が付いた。代わりに包帯が巻かれている。誰か、恐らくこの部屋の主かその人が呼んでくれた医者かが手当てまでしてくれたらしい。  少しじっとして、痛みが落ち着いてくると、外の音が聞こえだした。もう市場から戻ってきたらしい話し声や、ゴトゴトと車の音、遠く馬の嘶きもする。慌て者の子どもが鶏を放してしまって騒いでいる声は滑稽だった。平和な町の朝の生活音はすべて窓の下からで、どうやら二階の部屋らしいことだけがわかる。  早朝の風が夏の香りを運んできた。少年は再び目を閉じた。シーツから煙草の煙も女の香水も臭わない。余程清潔な男なのか、それとも普段から使われていないベッドなのか知らないが、有難いことだった。なんだか知らないが、ひどく頭が重い。もう少し寝かせてもらおうと布団を頭までひっかぶった時、階段を上ってくる足音がした。  耳を澄ます。足音は近付いてくる。ほとんど無意識に、少年は手を伸ばして銃を手に取った。     
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