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近付いてくる何者かは、迂闊なのか遠慮がないのか、足音高くやって来て部屋の前で止まった。少年は痛みのためになるべくゆっくりと起き上がり、そこで思い直した。よくわからないが、気を失っていたらしい自分を世話してくれた相手なら、いきなり襲っては来ないだろう。だが、念のために、というよりは彼の癖で、銃は握ったままドアを見つめた。
ノックもなく、ドアが開いた。
「お。起きたか、坊や」
赤毛の男が朗らかに笑って、少年の銃を認めると今度は冗談みたいに顰め面をした。
「物騒だな」
銃を置くようジェスチャーしながら、遠慮なく室内に入ってくる。ベッドサイドのテーブルに持ってきた水差しとグラスを置いて、ベッドの反対側へとまわると窓から外を見下ろした。少年を振り返り、窓に顎をしゃくって寒くはないかと訊いた。
少年は横目でそれを見て、銃を下げた。
「通りすがりの審判」
「覚えてた?殊勝だな」
決闘の立会人なんて、正直少年にとってはどうだってよかった。向こうが勝手に指名したことだし、頭がぼんやりしていて、指名された男の顔なんて見ていない。ただ赤い頭が印象に残っていただけだった。
「名前はトマト?」
トマト頭がまたテーブルの方に戻りながら、口をぽっかり開けて呆れ顔をした。
「ラングだ。トマトじゃない」
人を指差して説教するのは大人の義務なんだろうか、そんなことを少年は思った。まだ少し警戒して少年が何も言わずに黙っていると、ラングと名乗ったトマト頭はひとつ息を吐いてから少しだけ口角を上げた。
「冗談が言えるならよかった。体調はどうだ?」
「怪我は痛い」
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