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「あの髭もじゃ、昨日からまだ騒いでるらしいぜ。お前は牧場で焼け死んでればよかったんだとか、なんとか。あっさり負けたオッサンの話なんで、誰も相手にしてないけどな。まあどうせすぐに逃げていくさ」
これにも反応がない。諦めてラングが去ろうとしたとき、少年が小さな声で呟いた。
「だってあいつ、ロブを馬鹿にしたんだ」
ラングの眉間に皺が寄った。
「"牛殺し"のロブ?」
そっと訊ねた声に、バッと少年が顔を上げた。瞳に怒りの色がある。ギラリとラングを睨み上げる顔が緊張していた。
「見たの?ロブが牛を殺したところ」
「……あだ名だろ?みんな言ってる」
「やってない!」
身を乗り出した拍子に痛みが走った。一瞬だけ息を詰まらせ、目を瞑りかけたのを耐える。階下から男の声がした。二階を案じているらしい階段下の声になんでもない、とラングが答えて、少年に視線を戻す。
「落ち着いて話せ。傷が開く」
少年が唇を引き結び、一瞬だけ泣きそうな目でラングを見上げた。それから視線を落として唇を噛む。ラングが心配顔でとなりにしゃがみこんだ。
「お前、本当に隣村から来たのか」
少年は黙って更に俯いた。唇を噛むように頬を膨らませてグラスを握りしめたが、突然思い立ったようにそれをテーブルに戻して銃に持ち替え、そのままベッドを降りようとした。
「おいおいおいおい、どうした、少年」
「出ていく。お世話になりました」
「なんでだ。なんでそうなる」
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