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今度は呟いて、ラングは満杯の紙袋を抱えて急いだ。正直な話、ラングも決闘は嫌いじゃない。むしろ大好物である。喧嘩上等の少年時代を過ごした若い男なら誰しもその才能を持っているはずだ、とはラングの説で、マーロの恋人であるカレンはそれをいつも否定していた。
しかしラングは、誰になんと言われようが自分の趣味は譲らない男だった。この時も、見たいものは見たい、と足を急がせた。どんなやつが勝負しているのか、単純に楽しみな野次馬根性がまず顔を出した。一方で、勝負をしている二人の内うっかりどちらか、最悪両方が死んでしまわないか心配も横から覗き込んでくる。店の前で人死にがあって、偉そうな顔をした役人が調べに来たりして、客足が遠のいたらどうしてくれよう。せめぎあう気持ちに共鳴してか紙袋からレモンがひとつ転がり落ちたが、ラングは気が付かなかった。
「ロズ!」
何かと世話になっている、となりの酒店の女房のロズも見物に出ているのに気が付いて、ラングは声をかけた。
「ラング!厄介なことになったねぇ」
「まったくだ。でもまぁ、こうなっちゃ見届けてやんないと」
後半に好奇心がワクワクとにじみ出ていたのだろう。ロズは思い切り呆れ顔で首を振った。
「男ってのは、まったく。よく見なよ。片方はまだ坊やだよ」
「坊や?」
急いでいたので対峙する二人を見ていなかったラングは紙袋を抱えなおしながら顔をあげ、本日三回目の「嘘だろ」を呟いた。
「なんだって、あんなチビが……」
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