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隣村では以前から、土地の権利を巡って騒動が続いていた。その土地に牧場を構えるハンという農場主と、貴族に癒着したロータスという役人とが対立していて、この間ついにそれが双方多数の死者を出す抗争にまで発展したのである。役人側が雇った護衛とは名ばかりのロブというゴロツキが、同じく農場主側が用心棒として雇った一味のアレックという男を口論の末に殺害したことが発端だった。ラングも風の便りに聞き知っただけだが、騒動の中で互いのアジトはすべて焼け、牧場主も死に、生き残った者も多数処罰された。中でも真っ先に手を出したとされるロブは主犯格と見做され、絞首刑になったはずだった。結局土地は教会の一時預かりとなり、いずれ然るべき処置がなされるのだそうだ。
曖昧な世の中だ、と、ぼんやりラングが思っていた時である。突然、"髭もじゃ"が叫んだ。
「おい、お前!」
外見を裏切らないガラガラにしゃがれた声である。
「お前だよ!そこのでけぇ紙袋抱えた、赤い頭のしまらねぇ顔つきのあんちゃんよぉ!」
乱暴に言われたラングは、確かにしまりのない自分の顔を紙袋越しに指さした。男はうん、と、粗雑に頷いて、これもラングを指さして叫んだ。
「見物の野郎ども!このだらしのねぇ顔の、だからどっちに贔屓もなさそうな、この軟弱野郎に決闘の証人を俺は頼むぜ!」
「だらしのない軟弱野郎……」
ひどい言われようだが、ここで言い返しても決闘が乱闘になるだけなので憮然として黙った。そのぐらいの分別はラングにもある。男の方ではラングのこの沈黙を肯定と受け止めたらしい。乱暴に顎をしゃくって、少年にも形ばかりの確認をした。
「てめぇもそれで文句はねぇだろう」
脅すような口調だったが、少年は体格の割には落ち着いた様子で、
「どうぞ」
と、一言答えただけだった。男はひとつ、フンと鼻を鳴らした。
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