1-① 理想はハーレー、現実はカブ

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 神山銀行光瀬町支店もまた、地域の信用と信頼があればこそ成り立っている。  その信用と信頼を築き上げ、かつ保っていき、その上で――  地域を、光瀬町を、より大きく発展するために努力するのが、支店の渉外係である吟子の仕事だといえた。  その吟子。  日々、原付に乗って、光瀬町を走り回っている。  風を切りつつ、田んぼ沿いの県道をひたすらに走るのだ。 「……はあ」  がっちょん、がっちょん、がっちょん。  吟子は、原付のギアをチェンジさせつつため息をついた。  原付は、スーパーカブである。 「あたしは峰不二子みたいな女になりたかったんだ……。すらっとしたモデルになって、都会の高速道路を、ハーレーダビッドソンで駆け抜けたかったんだ……それなのに……!」  現実はチビ女で、職業は銀行員で、乗っているのはスーパーカブだ。  思い描いていた二十四歳とは、ほど遠い現実。十五年前――モデルになろうと志したころは、もっと背も伸びると思っていたし、脚だって長くなると思っていた。  当時はむしろ、クラスでも背が高いほうだった。吟子ちゃん、背が高くていいねー、なんて、友達の女子に言われたものだ。 (それがみるみる、他の子に追い抜かれたもんなー……)  半年ほど前のことだ。     
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