303人が本棚に入れています
本棚に追加
/277ページ
「なにって……お金を下ろしにATMに来たんだよ。そしたら大瀬良のおばあちゃんに会って、『こんにちはー』ってあいさつしたんだよ。……だけどおばあちゃんの様子がなんだかおかしいから、話を聞いてみたら――あ、これは振り込め詐欺なんじゃないかと気付いて、銀行の人を呼んで、警察にも通報したってわけだよ」
「まず、間違いないでしょう。CMのギャラ追加のためにお金を振り込ませるなんて、おかしすぎる」
制服警官が言った。
すると、その場にいた支店長や次長も大きくうなずいた。
「ああ、怖い怖い。詐欺なんて、怖いねえ。加奈ちゃんのおかげで助かったよ。騙されるところだった」
大瀬良さんは目を細めて、加奈にお礼を言った。
加奈は「いいえ、当然のことをしたまでですから」とにっこり笑った。
人付き合いが濃密な田舎ゆえに、詐欺を防ぐことができたといえる。
よかった、と吟子は思った。
「だけど大瀬良さん、ギャラの支払いのためにお金を振り込ませるなんて、おかしいって思わなかったんですか?」
加奈が尋ねる。
すると大瀬良さんは、ちょっと苦笑した。
「【巽フーズファクトリー】って名前がね。かなり大きな会社じゃない。その名前を出されてねえ……ちょっと変だと思ったけど、なんとなく信用しちゃった。それにまさか、わたしが騙されるなんて思わなかったもの」
「それが一番危ういんですよ。まさか自分が、っていう考えが」
支店長が言った。
だが大瀬良さんは、また笑った。
最初のコメントを投稿しよう!