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「だって、まさかうちみたいな田舎の貧乏食堂、詐欺師が狙うなんて思わないでしょ」
「大瀬良さん、大瀬良食堂はもう有名になっているんですよ」
吟子は、たしなめるように言った。
嘘ではない。漬物のCMが全国に流れた結果、大瀬良食堂はネット上でちょっと話題になった。
田舎のレトロな食堂ということで、昭和好きやレトロ好き、大衆食堂マニアの間では名がある程度、知れ渡ったのだ。
「そりゃ詐欺師は、お金があるって思いますよ。有名なんだから。それに大瀬良食堂は、入口に携帯の電話番号が書かれてあるでしょう。あれも危ないですよ」
事実であった。
大瀬良さんは買い物などに出かけるとき、食堂の入口に【所用で不在です。御用の方はこちらへ→080-×××ー××××】という貼り紙を貼ってから外出するのだ。
個人情報保護の観点からも危ういし、留守だと言っているので、空き巣にも狙われやすくなる。だからやめたほうがいいと、吟子は何度か言ったのだが、
――商売をやっているとそうもいかないんだよ。すぐに連絡しなきゃいけないときもあるだろうし……。それにうちは近所の人もいるから、空き巣なんて心配いらないよ。
と、大瀬良さんはそう言って笑いまくるのだ。
田舎のお年寄りの不用心さであった。
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